神社の駐車場で草履を履かせた瞬間、「痛い」と言って足を引っ込める。抱っこをせがむ。せっかくの被布(ひふ)姿なのに、砂利の上を一歩も歩いてくれない——3歳の七五三で、いちばん多いつまずきは着物より足元なんです。

ここで焦って「せっかく買ったんだから履いて」と言いたくなる気持ち、よく分かります。でも、3歳の足にとって鼻緒は生まれて初めての感触。嫌がるほうがふつうで、履けないことは失敗でも、しつけの問題でもありません。

この記事でお話しするのは、まず家で試せる草履の対処法と、それでも難しいときに「草履風シューズ」へ切り替える目安です。読み終わるころには、当日の足元をどう準備するか、自分の子に合わせて決められるようになりますよ。

3歳が草履を嫌がるのは、めずらしいことではない

写真館や着物店の案内を読み比べると、口をそろえて書いてあることがあります。3歳は草履や下駄に履き慣れていないから、歩きにくくてぐずるのは当たり前、ということです。着慣れない着物、いつもと違う場所、知らない大人からの視線。そこに硬い鼻緒が加わるのですから、機嫌が崩れるのも無理はありません。

だから「うちの子だけ」と落ち込む必要はぜんぜんないんです。草履が履けるかどうかは、性格の問題ではなく準備の問題。いろは的には、ここを先に切り替えておくだけで、当日の親の表情がやわらかくなると思っています。子どもは親の顔をよく見ていますから。

まず草履で対処できること

とはいえ、できれば草履で歩く姿も残したい。そう思う方のために、家で試せる順に並べます。どれも道具はほとんど要りません。

サイズの目安 かかとが台に乗るか、少し出る程度

大人の草履は、かかとが台から少し出るのが本来の履き方です。ところが3歳の場合は、かかとがしっかり台に乗る大きめを選ぶよう案内している和装小物店や写真館が多く、「少し出る程度まで」が目安になります。ぎゅっと足を奥まで入れる履き方ではないので、普段の靴より少し大きく感じても大丈夫。つま先が鼻緒に引っかかって、かかとが乗っている。この形になっていれば合格です。

逆に、台からかかとが大きくはみ出しているなら小さすぎ。歩くたびに台が足から離れて、転びやすくなります。

鼻緒が硬いときの慣らし方

新しい草履の鼻緒は、大人が触ってもかなり硬いものです。ここだけの話、いちばん効くのは「履く前にほぐしておく」こと。和装小物店や写真館が案内している手順は、だいたい次の3つに共通しています。

  • 鼻緒の付け根を外側へ押し広げる。足が当たる部分がふわっと開くようにする
  • 鼻緒と台の間に指を入れて、少しずつ伸ばす。一気に引っ張らず、もむように
  • 前坪(鼻緒の、指の間に入る部分)を指で引っかけて、ゆっくり伸ばす。指の間にぎゅっと押し込む履き方はしないので、少し隙間があるくらいでよい

ほぐしたあとも、足になじむまでには時間がかかります。だからこそ、次の「家で履く」が効いてくるんです。

当日の前に、家で履いて慣らす

1日数分でいいので、家の中で草履を履いて歩いてみる。これを何日か続けると、鼻緒が足になじんで、当日の「痛い」がぐっと減ります。足袋も一緒に履かせてください。足袋なしで鼻緒を挟むと、指の間が擦れて痛くなりやすいんです。伸びる素材の足袋を選ぶと、3歳でも嫌がりにくいですよ(足袋の素材は足袋のサイズと選び方で整理しています)。

ちなみに「ビーチサンダルで練習」は、勧める写真館と、無意味で危ないとして勧めない写真館があります。構造が似ているとはいえ別の履物なので、衣暦としては本物の草履を短時間、家の中でをおすすめします。何より、当日履くものに慣れるのがいちばんの近道です。

もうひとつ、小さいけれど効くのが「今度、こういう靴を履いてお出かけするよ」と前もって話しておくこと。写真を見せて、できれば本人に色を選ばせる。3歳なりに心の準備ができると、当日の受け入れ方が変わります。

当日の持ち物 ばんそうこうと、履き替え用の靴

準備をしても、当日は当日。指の間の保護用にばんそうこうを数枚と、履き慣れた靴を一足、バッグに入れておきましょう。かかとが脱げやすい子には、鼻緒に取り付ける「かかとバンド」も味方になります。写真は草履で、移動と参拝は履き慣れた靴でという使い分けは、写真館も勧めている定番の作戦。神社の近くまで靴で行って、境内の手前で履き替えれば、草履で歩く距離はわずかで済みます。

衣暦の運営会社の関連店である愛美寿館(新潟市)の七五三の案内でも、ご祈祷(きとう)の時間までは履き慣れた靴で移動することを勧めています。長く着物で過ごすこと自体が、3歳にはけっこうな負担。持ち物の全体は七五三 3歳・5歳・7歳の着物と準備リストにまとめてあります。

それでも難しいときの選択肢、草履風シューズ

家で試して、それでも足を引っ込める。鼻緒を見ただけで泣く。そんなときは、無理に草履にこだわらなくていいんです。ここ数年、七五三の履物には「草履風シューズ」という選択肢がはっきり増えました。

「靴」だけれど、名前には草履が入っている

草履風シューズは、見た目を草履に寄せた子ども用の靴です。鼻緒はなく、足を包む形。おもしろいのは売られ方で、通販サイトでは「七五三 草履 靴 シューズ」「草履風シューズ」のように、商品名に草履という言葉を入れて売られていることが多いんです。買う側も「草履の中のひとつの選択肢」として探している、ということですね。3歳の男女兼用として作られたものもあります。

選ばれる理由は「痛くない・脱げにくい」

商品の説明を見ていくと、うたい文句はほぼ共通しています。鼻緒がないから指の間が痛くならない、靴擦れしにくい、歩きやすい、脱げにくい。甲にゴムのストラップが付いて、走っても脱げにくいものもあります。草履で困る点を、そのまま裏返した作りなんです。サイズの目安として、草履と同じく「かかとが少し出る形」と案内している商品もありました。

そして、こうしたシューズを実際にどう選ぶか。いろは的おすすめは、被布や着物の色に合わせすぎないことです。白・赤・ベージュのような合わせやすい色を一足選んでおくと、当日どの着物でも使えますし、下の子の七五三にも回せます。


鼻緒を嫌がる、当日たくさん歩く、下の子にも回したい。この3つのどれかに当てはまるなら、草履風シューズが候補になります。ここで紹介するのは3歳の男女どちらでも履ける16.5cmで、甲のゴムで脱げにくい形です。写真だけ草履に履き替える使い分けとも相性がいいですよ。


写真の見え方と、参拝・移動での使い分け

正面から撮る写真では、草履風シューズは草履とほとんど見分けがつきません。足元がしっかり写る全身の写真だけ本物の草履に履き替える、という手もあります。逆に参拝や移動は、迷わずシューズで。「写真は草履、歩くときはシューズ」と決めておくと、当日の判断で迷いません。

もし手持ちのスニーカーで代用するなら、マジックテープの端が着物の裾に貼りついて生地を傷めることがあるので、端を余らせずに留めておくと安心です。

迷ったらこう決める(判断の目安)

ここまで読んで「で、うちはどっち?」と迷う方へ。家で試したときの反応と、当日の予定で決めるのがいちばん確実です。

家で履かせた反応 当日の予定 おすすめ
数分なら歩ける 撮影中心で、歩く距離は短い 草履で。移動用に履き慣れた靴を持つ
数分なら歩ける 参拝の石段や砂利道が長い 写真は草履、移動と参拝は草履風シューズか履き慣れた靴
すぐ脱ぐ、泣く どちらでも 草履風シューズに決めて、草履は持って行かない
試す時間がない 当日まで数日 草履風シューズを主にして、草履は写真用に持つ

切り替えの線引きは「家で2〜3回試して、それでも履くのを嫌がるかどうか」。衣暦としては、当日つらそうなら迷わずシューズと考えます。泣き顔の写真より、歩けて笑っている写真のほうが、あとで見返してうれしいですから。

よくある質問

草履と草履風シューズ、両方持って行くべき?

家で数分歩けたなら両方が安心です。写真用に草履、移動用にシューズという分担ができます。家で嫌がったなら、シューズだけで十分。荷物を減らせますし、当日に「やっぱり草履」と揺れずに済みます。

被布と靴で、変に見えない?

正面や上半身の写真では、ほとんど気になりません。足元まで写る全身の写真が心配なら、その一枚だけ草履に履き替える方法があります。色を着物と合わせすぎず、白やベージュなど落ち着いた色にしておくと、どの着物にもなじみます。

5歳・7歳でも同じ?

3歳から7歳まで、同じ形の草履風シューズが男女兼用で売られています。ただ5歳・7歳になると、家で慣らせば草履で歩ける子がぐっと増えます。年齢が上がるほど「まず草履で試す」を厚めに、が目安です。

まとめ

「痛い」と言われたら、まずはサイズと鼻緒を見直して、家で数分ずつ履かせてみる。足袋とかかとバンドが味方になります。それでも難しければ、草履風シューズに切り替えて、写真だけ草履という作戦で十分。覚えておくことは2つだけ。家で試すこと、当日つらそうなら迷わず切り替えること。

駐車場で足を引っ込めたあの子も、履き慣れた靴で境内を歩けば、ちゃんと笑ってくれます。草履を履けなくても大丈夫。3歳の七五三は、歩けて笑っていれば、それで満点なんです。