着物を脱いだあと、脇のあたりをちらっと見て「あれ、シミになってないかな」とドキッとした経験、ありませんか。実はこれ、その場では何も見えなくても数年後にじわっと出てくることがあるんです。今日は、着る前・着ている間・脱いだ後、それぞれのタイミングでできる汗対策を、順番にお伝えしていきますね。
汗じみができやすい部位とその理由
汗をかきやすいのは脇・背中・衿まわり。どれも肌着や長襦袢と着物がぴったり重なる場所で、汗が繊維に染み込みやすいんです。汗の中には皮脂やミネラル成分が含まれていて、これが繊維の奥に残ると後々のトラブルの原因になります。皮脂は丸洗いだけでは落としきれず、残ったまま保管すると黄ばみやシミにつながるといわれています。まずはここを知っておくだけで、対策の優先順位がぐっと見えやすくなりますよ。
着る前にできる準備 肌着と汗取りパッド
ここだけの話、いちばん差がつくのは着る前の準備なんです。肌襦袢には吸汗性の高い綿ガーゼなどが使われることが多く、汗を吸い取って着物や長襦袢への汗ジミを防ぐ役割を持っています。裾除けは腰布部分が綿、裾部分はキュプラなど滑りの良い素材で作られているタイプが一般的です。ほかにも、イグサの芯を使ったあしべ織の汗取り襦袢や、吸湿速乾のドライ生地の肌着、脇や背中に防水布が付いたタイプもあります。暑い時期ほど、汗をしっかり吸ってくれる肌着を選ぶことが、着物への汗移りを防ぐいちばんの近道です。膝裏の汗が気になる方は、汗取り機能のあるステテコも選択肢のひとつになりますよ。肌着選びで迷ったときは、和装ブラジャー・肌着の選び方 補整の基本もあわせて読んでみてください。
着ている間にできる工夫
着ている間は、こまめに休憩を挟んで汗を落ち着かせるのが安心です。屋外での立ち姿が続くときは、扇風機の風に当たる時間をつくるだけでも汗のかき方がだいぶ変わってきます。汗取りパッドや肌着で吸わせる、というのが基本の考え方ですが、これは「着る前の準備」が効いてくる場面でもあるんですよね。準備と当日の工夫は、実はセットで考えるものなんです。
脱いだ後すぐにやっておきたい応急処置
脱いだ後、汗を大量にかいた自覚があるときは、そのまま畳んでしまう前にひと呼吸置いてみてください。着物クリーニングでは丸洗いとは別に「汗抜き」というメニューがあり、脇や背など汗をかきやすい部分に高圧蒸気を当てて絹に染み込んだ汗を浮かせる作業を指します。一般的な丸洗いは石油系溶剤によるドライクリーニングなので、油性の皮脂やほこりは落とせても、水溶性の汗汚れを落とすのは苦手なんです。汗をかいた着物には、丸洗いとあわせて汗抜きを行うのが安心とされています。季節の変わり目や長期保管前は特に、汗抜きを検討するタイミングといえそうです。
自宅ケアとクリーニングに出す目安
汗をそのままにしておくと、時間が経つにつれてやっかいな変化が起こります。汗に含まれるマグネシウムやカリウムなどのミネラル成分が繊維に染み込んだあと、3〜5年ほどかけて徐々に酸化し、黄色からオレンジ、茶色へと色を濃くしていくんです。これが「黄変」と呼ばれる現象で、進んでしまうと一般的なシミ抜きでは対応できず、大掛かりな染色補正が必要になったり、直せない場合もあるといわれています。正絹は特に汗の塩分を吸収するとシワが戻りにくくなるので、黄ばみとシワという二大トラブルはどちらも汗が原因と考えて間違いありません。
ではどこに相談すればいいのか、というと少し迷うところですよね。洋服向けの一般的なクリーニング店でも「着物OK」としているところは多いのですが、実際には「丸洗いしかできない」ケースも珍しくなく、黄変の処置となるとスタッフが着物に不慣れなことも多いんです。汗染み予防をしっかりしたい場合は「汗抜き」メニューのある着物クリーニング専門店を選ぶのがいろは的おすすめです。また、呉服店が窓口になる悉皆屋(しっかい屋——着物のお直しやシミ抜きなどを請け負う専門店のことです)は染み抜きを外注する形態のところもあり、納期や料金が事前にはっきり分からないケースもあるようです。気になる場合は、依頼前に作業内容と目安の納期を確認しておくと安心ですよ。汗染みが濃く変色してしまった古いシミは、汗抜きだけでは戻らず、酸化した成分を取り除く「シミ抜き」や、範囲が広ければ着物をほどいて洗う「洗い張り」が必要になることもあります。自宅でできることとクリーニングに出す目安については、着物を着た後のお手入れはどうする?自宅でできることとクリーニングに出す目安でも詳しく整理していますので、保存しておくと安心です。
まとめ
着物の汗対策は、着る前の肌着選びと、脱いだ後の一手間、このふたつに尽きます。大丈夫、覚えるのは2つだけです。汗を大量にかいた日は「そのまま片付ける」のではなく「汗抜きを検討する」、この判断ができれば、数年後の黄変にドキッとすることもぐっと減ってくるはずです。冒頭でお話しした「あのシミ、大丈夫かな」という不安も、これで少し軽くなりますように。
