紅葉狩りの帰り道、ふと着物姿の方の裾に赤い葉が流れているのを見かけたことはありませんか。あれは偶然の模様ではなく、竜田川文様という名前を持つ、れっきとした柄なのです。ただの紅葉と、なぜ川の名前がつくのでしょう。ひもとくと、そこには一首の和歌が隠れています。

楓ともみじ、呼び方がふたつある理由

着物の柄を語るとき、同じ木の葉なのに呼び方が変わることがあります。色づく前の緑色の葉は「青楓(あおかえで)」、赤く色づいた葉は「紅葉」と呼ばれます。青楓は初夏、紅葉は秋の柄というのが、着物の世界の基本的な考え方です。青々とした葉と赤く染まった葉、その両方が一枚の柄の中に描かれているものは、初夏と秋のどちらでも着られるとされています。季節をまたいで使える、なんとも便利な一枚といえるでしょう。

竜田川文様にひもとく、和歌の物語

紅葉の柄の中でも、とくによく見かけるのが「竜田川」と呼ばれる文様です。流れる水の模様に、散った紅葉の葉が浮かぶように描かれています。竜田川は奈良県の生駒山地を流れる、実在の川の名前です。古くから紅葉の名所として知られ、9世紀の歌人・在原業平が「ちはやふる」から始まる歌で、竜田川が散り紅葉で真っ赤に染まった様子を詠みました。この和歌が、竜田川文様という柄の名前の由来になっているのです。ただ紅葉を描くのではなく、流水と組み合わせることで、川面に葉が流れる情景そのものを写し取っている——それが、竜田川文様なのです。柄の意味を知ってから眺めると、同じ紅葉でも見え方が変わってくるから面白いものです。

紅葉と文様の関わりでいえば、秋草文様もあわせて知っておくと、秋の着物選びの引き出しが増えます。萩(はぎ)や桔梗(ききょう)といった秋の草花を集めた柄で、竜田川とはまた違った秋の表情を見せてくれます。

着る時期は、季節をひとあし先取り

紅葉の柄をいつ着るかというと、目安は9月から11月ごろです。実際の紅葉が見頃を迎えるのは11月末あたりですが、着物の柄は実際の季節より少し早めに身につけるのが心地よいとされています。葉が色づき始める前に、先取りして袖を通す。これは着物の柄選び全般に通じる考え方で、たとえば桜の文様を真冬から着始めるのも、同じ発想から来ています。実物の季節を追いかけるのではなく、少し先回りして装う——そんなところに、着物ならではの遊び心があるのでしょう。

ただし、このルールがすべての紅葉柄に当てはまるわけではありません。写実的に描かれた紅葉であれば時期を意識する必要がありますが、抽象化された文様や、他の季節の花と組み合わされた図案なら、通年で着られるとされています。柄が具体的な景色を描いているか、それとも様式化された模様として楽しむものか。まずそこを見分けるのが、季節の柄選びの第一歩です。

まとめ 散る前のいちばんきれいな時を着る

竜田川文様は、ただの紅葉柄ではなく、平安の和歌に詠まれた川の情景を写した柄でした。青楓は初夏、紅葉は秋という時期の目安と、写実か抽象かという柄の性格。このふたつを分けて考えれば、紅葉の着物を選ぶときに迷うことは少なくなるはずです。木々が色づき始めるころ、その手前でそっと袖を通す——今日の一枚に、小さな物語を添えてみてはいかがでしょう。