反物を一枚広げて、これがどうやって身体にぴったりの着物になるんだろうと眺めたことはありませんか。呉服店で「お仕立てはどうされますか」と聞かれて、なんとなく頷いてしまったという方も多いと思います。実は仕立てって、湯のしから縫い上げまでちゃんと決まった流れがあるんです。今日はその流れと、頼むときに伝える寸法の基本を、一緒に整理していきましょう。
「仕立てる」ってそもそもどういうこと?
仕立てるというのは、一反の布——反物を、その人の身体に合わせて裁ち、縫い合わせて一枚の着物にすることです。着物は袖、身頃、衽(おくみ、身頃の脇に足す細長い布のことです)、衿など、いくつかのパーツを組み合わせて作られています。反物という状態ではただの布ですが、仕立てることで初めて「着られるもの」になるんですね。しかも着物はほどけばまた一枚の布に戻るという面白い作りになっていて、これは洋服にはあまりない発想です。だからこそ後で寸法を直したり、仕立て直したりできるわけです。
反物が着物になるまでの流れ
仕立ての工程は、大きく分けて「生地を整える」「裁つ」「縫う」の順で進みます。順番を飛ばすと仕上がりに影響が出るので、それぞれどんな意味があるのか見ていきましょう。
湯のし・水通しで生地を整える
裁断の前に、まず反物を丸巻きのままの状態で整える工程があります。湯のしは反物に蒸気をあてて生地をやわらかくしながら、シワを伸ばし、縦糸と横糸の目を均等に整えて幅を揃える作業です。洗い張りの仕上げや、仕立ての前に行われます。一方、紬の反物には湯通しといって、お湯で余分な糊を落とす作業をすることが多く、綿や麻の反物には水通しをして生地目を整え、あらかじめ縮ませておくことで仕上がり後の縮みを防ぐという方法が取られます。水通しのあとはアイロンで裏から一方向にあてて布目を整え、このときキズや染めムラが見つかったら糸で印をつけておき、和裁士さんが仕立てる前に確認できるようにします。この下ごしらえを省くと、仕立て上がってから縮んだり歪んだりする原因になるので、地味に見えて大事な工程なんです。
裁断は直線裁ち、パーツは7つ
整えた反物は、袖が2枚、身頃が2枚、衽が2枚、衿が1枚、共衿(衿の上に重ねる衿のことです)が1枚という構成に裁たれます。反物の幅は約37cmとほぼ決まっているので、着物の裁断は直線裁ちが基本です。反物の長さは身長とヒップから割り出して、だいたい12m前後を用意します。曲線を裁ち落とさずに直線で組み合わせていくところが、着物が「ほどけばまた一枚の布に戻る」といわれる理由でもあります。
縫いは手縫いとミシン、何が違う?
裁ったパーツを縫い合わせる段階では、手縫いとミシン縫いという二つの方法があります。和裁の世界では今も手縫いが主流で、ミシン仕立てを専門にしているお店でない限り、むしろミシンのほうが納期がかかることもあるそうです。手縫いは糸に少し緩みを持たせて縫うため、生地にかかる負担を分散できるのが特徴です。縫い代(縫い目から布端までの幅のことです)も、手縫いなら2〜3mmまで詰めて縫えますが、ミシンだと端から約1cmのマチが必要になります。明治にミシンが普及して以降、効率のよい仕立て方法として広まりましたが、現在ミシン縫いの着物の多くは海外の縫製工場で作られています。手縫いはミシンより仕立て代が高く、時間もかかりますが、生地への負担が少なく仕立て直しがしやすいという利点があります。反物から仕立てるか、仕立て上がりの既製品を選ぶかで迷ったときは、反物から仕立てる着物と仕立て上がり着物、どっちを選ぶ?も参考にしてみてください。
寸法の基本 伝えるのは身丈・裄・身幅の3つ
仕立てをお願いするとき、いちばん気になるのが自分の寸法をどう伝えるかだと思います。大丈夫、覚えるのは3つだけです。身丈は着物の長さで、女性は身丈イコール身長、男性はお端折り(腰のあたりで折り返す部分のことです)がないぶん身丈イコール着丈になります。裄は首の後ろの付け根から手首のくるぶしまでの長さで、まっすぐ立って腕を45度に開いた状態で測ります。腕をどのくらいの角度で下げるかによって3cmほど差が出ることもあるので、左右両方測って平均を出すと安心です。身幅は身頃の幅のことで、腰まわりの一番太いところを基準に前幅と後幅を決めます。呉服屋さんでは今も鯨尺(1尺は約38cm)という単位を使うことが多いですが、センチで伝えても仕立てのときに換算してもらえるので心配いりません。初めて仕立てる場合は、裄・バスト・ウエスト・ヒップの数値を伝えれば、お店側で身丈や身幅を割り出してくれます。自分で測って確認したい方は着物のサイズはどう測る?の記事もあわせてどうぞ。
仕立てはどこに頼む?流れと確認しておきたいこと
仕立ての依頼は、呉服店やお仕立て専門店に反物を持ち込むのが一般的な流れです。工程としては「採寸」「湯のし・洗い張り」「仕立て」「納品」の順に進み、採寸は身長・バスト・ヒップなどから寸法を割り出していきます。良い仕立てとは、着崩れしにくく、着姿が美しく、脱いだ後もシワなくたためることだといわれていて、これは熟練の和裁士さんが一つひとつの工程を丁寧に積み重ねているからこそ実現できるものです。手縫いかミシンか、どのくらいの期間で仕上げてほしいかは、お店によって対応が変わるので、依頼する前に一度確認しておくと安心です。
仕立て直しという選択
すでにある着物のサイズが合わなくなったときや、生地が汚れたときは、一から仕立てるのではなく仕立て直すという方法もあります。ほどいて洗い張りをしたあと、もう一度湯のしをかけて生地を整えてから縫い直すという流れです。湯のしは洗い張りの仕上げとしても使われる工程なので、仕立てるときも直すときも、実は同じひと手間が生地を整えてくれているんですね。長く着るつもりの一枚なら、仕立て直しができることも含めて考えておくと、選び方がぐっと楽になりますよ。
着物を探すなら、商品ページで素材やサイズ、仕様の説明を確かめてから選びましょう。記事で整理したポイントに照らすと、自分に合うものを見つけやすくなります。
まとめ
仕立てとは、反物という一枚の布を身体に合わせて裁ち、縫い合わせて着物にすることでした。湯のしや水通しで生地を整え、直線裁ちで7つのパーツに分け、手縫いかミシンかを選んで縫い上げる。この流れが分かっていると、お店で何を聞かれても慌てずに答えられます。伝える寸法も身丈・裄・身幅の3つだけで、あとはお店が割り出してくれるので難しく考えなくて大丈夫です。仕立ての工程が見えてくると、次は反物から仕立てるか、仕立て上がりを選ぶかという判断もしやすくなるはずです。気になる方は反物から仕立てる着物と仕立て上がり着物、どっちを選ぶ?もあわせて読んでみてください。
