単衣(ひとえ)の風が恋しくなるころ、着物の話題はいつも透ける生地のことへ向かいます。絽(ろ)、紗(しゃ)、そして麻——同じ「涼」を求めながら、それぞれに異なる織りの物語が織り込まれています。

絽とは・紗とはどんな織り方か

絽と紗は、どちらも「からみ織り(もじり織り)」という技法で織られる薄物です。ひもとくと、隣り合う経糸をねじり、その交差部分をストッパーのようにして意図的な隙間を作る織物であり、単に糸の間隔を粗くしているわけではないのだそう。紗は緯糸一本ごとに経糸二本を絡ませ、生地全体に均一な隙間を作るため透け感が強く、絽は奇数の緯糸ごとに経糸を絡めて平織りと組み合わせるため、透け感はやや控えめになります。

絽はもともと紗と平織りを組み合わせたもので、江戸時代に誕生したと言われています。より古い技法として「羅」があり、経糸がすべて連続して交差する複雑な組織で、正倉院にも奉納された歴史を持つのだとか。紗は羅から派生し、通常の機織り機で織れることから平安時代ごろに大流行したとされ、絽は紗がさらに変形してできたもので、7・5・3本おきに緯糸へ経糸を交差させて織る——なんとも手間のかかる仕事です。

素材のこと

絽・紗の素材は正絹だけでなく、綿やポリエステルもあります。同じ織り方でも、手に取る質感はさまざまなのです。

麻素材の特徴と歴史

麻は吸水性・発散性に優れ、江戸時代には木綿着物が普及するまで季節を問わず庶民の普段着として着られていました。室町時代に木綿が入るまでは貴族や武士の下着としても使われ、江戸時代には身分規制のもとで庶民が夏冬を問わず麻と木綿を着ることが定着していったといいます。

鎌倉時代の史書『吾妻鏡』には、源頼朝が越後上布(じょうふ)千反を献上品として贈った記載があり、鎌倉から室町時代にかけて麻布の生産・利用は武家社会でも増えていったようです。日本での麻の活用は縄文時代の遺跡出土品からも推測され、正倉院御物にも上布と呼ばれる麻織物が多く見られることから、麻は皇室でも用いられた素材だったとされています。ふと目に留まるのは、こうして時代を超えて途切れずに続いてきた、麻という布のしぶとさでしょうか。

透ける生地が涼を演出する日本の美意識

肌にひたりと寄り添う絹の重みではなく、風をすり抜けさせる隙間の設計——それが絽や紗の涼のかたちです。どこか愛おしいのは、涼しさを追い求めた結果が、装飾性の高い透け感という美しさにもつながっている点かもしれません。知れば知るほど、織りの技法そのものが季節の装いを支えているのだと気づかされます。

絽・紗・麻の格の違いと着用時期

着用時期については諸説ありますが、おおまかに10月から5月は袷(あわせ)、6月・9月は単衣、盛夏の7月・8月は薄物を着るのが伝統的なマナーとされてきました。絽の着用時期は6月から8月末ごろ、紗は7・8月とされることが多く、絽・紗全体では7・8月を中心に6~9月ごろまで幅を持たせる考え方も見られます。近年は気候の変化により、着用時期の運用が多様化している点も、地域や場面によって受け止め方が異なるところです。

格については、素材や織り方だけでなく紋の有無や仕立てによっても変わってくるため、一概には言い切れません。着物全体の格を俯瞰したいときは、着物の種類と格が分かる早見表もあわせて眺めてみると、透ける生地の位置づけが見えやすくなるかもしれません。

現代における夏物着物の楽しみ方

近年の温暖化により、着用時期そのものが少しずつ広がる傾向にあるとも言われています。決まりごとを窮屈に感じるより、今日の気温と場の空気に耳をすませて選ぶ——それも、夏物着物とのやさしい付き合い方でしょう。

涼やかな装いで訪れる先に、静かな展示室というのも悪くありません。着物で美術館へ 服装のポイントと楽しみ方も参考にしながら、透ける生地の心地よさを味わってみてください。

単衣から薄物へ、季節はゆっくりと衣替えを促します。今日の一枚に、小さな物語を。

涼やかな一枚をこれから探すという方は、着物はレンタルと購入どっちがいい?も参考にしてみてください。

夏の素材・文様・染め技法など染織に関する記事は染織と文様ガイドにまとめています。