浴衣の上をふと目に留まると、丸くて愛らしい輪の柄。涼しげな柄だと思って近づいてみると、これが雪の文様だったりします。真夏に雪をまとうとは、なんとも不思議な話です。ひもといてみると、この雪輪文には冬と夏、ふたつの顔があるのでした。

雪輪とはどんな形か

雪輪は、雪の結晶を図案化した吉祥文様のひとつです。雪の結晶そのものを写実的に描くのではなく、輪郭を丸い曲線で結んだ円形にまとめてあるのが特徴。丸い輪の縁に小さなくぼみや切れ込みを入れて、雪の結晶らしさをそっと匂わせるのが基本の形です。円の中に花などの模様を入れたり、くぼみの深さに変化をつけたりと、デザイン性の高いものも見られます。

由来をひもとくと

雪を文様として表す試みは、室町時代から戦国時代にかけて始まったと考えられています。桃山時代には、樹木に雪が降り積もった様子を描く「雪持ち文」が能装束や小袖に使われるようになりました。京都の呉服商・雁金屋が寛文4年(1664年)にまとめた『御用雛形帳』にも、雪輪をあしらった小袖デザインがすでに記録されています。当時の雪輪は丸に切れ込みを入れたものが主流で、切れ込みの深さや数、丸みの有無など、実にさまざまなバリエーションがありました。今わたしたちがよく目にする、丸い輪郭に6か所のくぼみを持つ雪輪の形に落ち着いたのは、元禄時代の頃とされています。伊万里焼の器にも、17世紀中頃からこの文様がよく使われるようになりました。

ちなみに、雪の結晶をそのまま正六角形の幾何学模様にした「雪華文」は、また別の文様です。江戸時代後期に『北越雪譜』や『雪華図説』が刊行され、雪の結晶を観察することが話題になったのをきっかけに広まりました。丸くやわらかい雪輪と、結晶をそのまま写した雪華文——似ているようで、生まれた時代も発想も違うのが面白いところです。

冬の柄がなぜ夏に似合うのか

雪の文様は、季節を問わず豊かな実りを願う吉祥文様として扱われてきました。それだけでなく、江戸時代の夏衣や浴衣には、あえて雪など冬を連想させる柄を描く工夫があったといいます。目にした瞬間にひんやりとした気配を感じさせる、いわば視覚の涼——それが、夏の雪輪文の役目なのです。金魚や朝顔、青海波など夏の文様と並んで、雪輪もまた涼を呼ぶ柄のひとつとして選ばれてきました。

着る時期の考え方 雪輪は通年、雪持ちは冬向き

同じ雪をモチーフにした柄でも、着る時期の考え方は少し異なります。雪持ち柳や雪持ち笹、雪持ち松、雪持ち椿(つばき)といった雪持ち文は、雪の積もった植物を写実的に描くぶん季節感が前に出やすく、冬の柄として着るのが向いています。一方の雪輪は、雪そのものを抽象化した円形の柄です。冬の情景を写し取るというより、涼やかな模様として独立しているぶん、季節を問わず着られる柄として親しまれてきました。柄によって着る時期の目安が変わるのは、桜文様などにも通じる考え方です。季節の柄をいつ着るかで迷ったときも、写実的か抽象的かという物差しはひとつの手がかりになります。

雪輪の中に何を入れるか

雪輪の面白さは、輪の中身にもあります。円の中に花や小さな模様を描き込んだり、輪郭のくぼみそのものに変化を持たせたりと、同じ雪輪でも表情はさまざまです。ひとつの丸の中に、涼しさと吉祥の願いを両方たたませておく——知れば知るほど、贅沢な発想の柄だと感じます。

まとめ 一つの文様に、冬と夏の二つの顔

雪輪は、冬を思わせる柄でありながら、夏の着物や浴衣にも似合う——その理由は、雪そのものを丸くやわらかい形に抽象化した文様だから。写実的な雪持ち文が冬向きなのに対し、雪輪は季節を問わず袖を通せます。単衣(ひとえ)の風が恋しくなるころも、真夏の日盛りも、丸い雪輪はどこか愛おしい涼をそっと運んでくれます。今日の一枚に、小さな物語を。