「今日、思ったより暑いんだけど、まだ袷を着なきゃいけない時期だっけ……」。6月に入ったばかりの頃や、9月の終わりにこんなことを考えたことはありませんか。カレンダー通りに考えると単衣は6月と9月だけ。でも実際の気温はそう単純に割り切れないですよね。今日はこの「単衣、いつまで着ていいの問題」を、伝統的なルールと今どきの考え方の両方から整理してみます。
まずは伝統的な衣替えのルールをおさらい
衣替えという習慣は、もともと平安時代に中国から伝わり、日本で今の形に変わってきたものです。現代の一般的な区分では、10月1日から翌年5月31日までが裏地付きの袷、6月と9月が裏地のない単衣、7月と8月が絽や紗など透け感のある生地の薄物とされています。裏地の有無と生地の透け感、この2つを覚えておけば、着物の見分け方に迷うことは少なくなります。
この区分は昔からの決まりごとというより、季節を先取りして楽しむ日本らしい感覚から生まれたものです。だからこそ、お茶会のような正式な場では今もこのカレンダー通りに考えるのが基本になっています。茶会では10月から5月が袷、6月と9月が単衣、7月と8月が薄物という着分けをきちんと守ることが求められていて、気温がどれだけ変わっても、こうした場ではルールを優先したほうが安心です。
カジュアルな場面なら、気温で決めていい
一方で、普段のお出かけや食事会のようなカジュアルな場面では、少し事情が違ってきます。近年の気候の変化もあって、実店舗のスタッフの間では3月末から10月頃まで、気温に応じて単衣を着る人が増えているという見方もあるようです。真夏日が続く6月に袷を着て汗だくになるより、単衣で快適に過ごしたい。そう考えるのは自然なことですし、正式な場でなければ、体感温度を優先して単衣や薄物を選んでも差し支えありません。
ただし、これはあくまでカジュアルな場面での話です。茶会や結婚式、式典といった改まった席では、先ほどのカレンダー通りの着分けが今も基準になっています。「普段は気温で」「正式な場では暦で」というふうに、場面によって使い分ける意識を持っておくと、着物選びで迷う場面がぐっと減りますよ。単衣と薄物の細かい違いについては、単衣と薄物の着分けをやさしく解説した記事も参考にしてみてください。
「通年単衣」という選択肢
最近では、6月と9月だけでなく一年を通して単衣を着るという選択をする方も増えてきました。冬は暖房の効いた室内で過ごす時間が長くなったこと、袷より軽くてお手入れの手間も少ないこと、仕立て代を抑えられることなどが理由として挙げられます。寒い時期は長襦袢や肌着で調整したり、羽織やショール、コートを重ねたりすれば、単衣でも十分に冬を乗り切れます。帯まわりに冬らしい素材のものを選べば、季節感が失われることもありません。
そこで気になってくるのが、単衣の弱点をどう補うかという点です。単衣は裏地がない分、袷に比べて生地への負担が集中しやすい仕立てだからです。
単衣を長く着るなら、居敷当てを見直したい
単衣の着物や長襦袢には、お尻のあたりに当て布をつけることがあります。これが居敷当てです。座ったときに生地にかかる力を、縫い目一点ではなく両脇に分散させることで、着物が裂けてしまうのを防ぐ役割があります。あわせて、下着や肌の透けを防ぐ役割も果たしています。座る機会が多い方ほど、居敷当てをつけておくとお尻部分の生地の傷みを抑えられます。
居敷当てを腰から下にかけて広くつけると、その部分だけ袷のような仕立てになり、防寒の効果も生まれます。通年単衣で過ごしたい方には、うれしい工夫ですよね。ただし、布が1枚増える分だけ暑さを感じやすくなること、表地と違う布を使うと洗ったときの縮み方の違いからお手入れに気をつかう必要が出てくることも覚えておきましょう。長襦袢の透け感を楽しむタイプの着物では、居敷当てをつけると透けが見えなくなってしまう点も、好みが分かれるところです。
居敷当てをつけない場合は、背縫いの部分を補強する「背伏せ」という方法をとります。盛夏に着る薄物では、居敷当ての色が透けて目立ってしまうため、背伏せで仕立てることが多いようです。単衣をどう仕立てるかは、涼しさを取るか、補強や防寒を取るかのバランスで決めていくことになります。
まとめ 迷ったら場面と体調を優先軸に
単衣をいつまで着るかという問いに、ひとつの正解があるわけではありません。茶会や式典なら10月から5月は袷、6月と9月は単衣、7月と8月は薄物というカレンダーを守る。普段のカジュアルな装いなら、気温や体調に合わせて単衣を長めに着てもいい。この2つの軸を頭に入れておけば、暑い日に無理して袷を着込む必要はなくなります。通年単衣を選ぶなら、居敷当てをつけるかどうかも含めて、自分の着方に合った仕立てを相談してみてください。透け感を活かした夏物の着こなしについては、絽・紗・麻の透ける着物についての記事もあわせてどうぞ。
