お茶会やお食事会の玄関先で、上着をそのまま着ていていいのか、脱いでから入るべきなのか、一瞬手が止まったことはありませんか。となりの人がさっと脱いでいるのを見て、あわてて自分も脱いだ、という経験がある方もいるかもしれません。実はこれ、着ているものが羽織なのかコートなのかで、答えが変わってくるんです。
見た目でわかる、羽織と道行コートの違い
羽織は前が開いたまま着る上着で、羽織紐をかける輪っか(これを「乳(ち)」と呼びます)が胸元についています。乳の位置は帯の上線よりやや下あたりが目安です。丈は膝下までの「長羽織」と、それより短い「中羽織」があり、今は長羽織を選ぶ方が多いようです。
一方の道行コートは、衿の形がまったく違います。衿ぐりが四角くかたどられた「道行衿」(角衿とも呼ばれます)が特徴で、前はボタンで留めます。衿の開き方には都衿・被布衿・千代田衿・へちま衿など細かな種類もありますが、四角い衿という印象がいちばんの見分けポイントになります。似た仲間に道中着というコートもあり、こちらは着物と同じように衿を合わせ、前を紐で結んで着る作りです。着脱が楽なので、道行より気軽に羽織れるコートとして使われています。
いちばんの違いは「脱ぐかどうか」
見た目の違い以上に覚えておきたいのが、室内での扱いの違いです。羽織は室内でも着たままでよく、道行コートと道中着は建物に入る前に脱ぐのがマナーとされています。道行や道中着はもともと塵除けや防寒のための外套で、洋服でいうコートをクロークに預けるのと同じ感覚だと考えるとわかりやすいです。
脱ぐタイミングは、玄関先や建物の入り口です。脱いだコートは風呂敷やバッグにたたんで持ち歩くと、床に置かずに済んでスマートです。道行や道中着の脱ぎ方は、道中着なら前の紐を先にほどく以外、基本的な手順は羽織を脱ぐときとほぼ同じなので、一度覚えてしまえば迷いません。
ただし羽織にも例外があります。膝下10cmほどある長羽織は、お茶席や目上の方が同席する場では脱いでおいたほうが無難な場合があるとされています。周りの様子を見て合わせる、くらいの心づもりでいると安心です。
格と場面 礼装に合わせられるのはどちら?
フォーマルな場での使い分けも、コートの種類によって変わってきます。道行コートは礼装にも合わせられる懐の広さがあり、留袖や訪問着に合わせるならぼかしや絵羽柄(柄がひと続きの絵になっている生地)を選ぶのが基本です。同じ道行でも紬素材で仕立てればカジュアル用になるので、生地によって印象がかなり変わるコートだといえます。道中着はもともとカジュアルな装いのコートで、道行に比べると気軽に着られる立ち位置です。
羽織はというと、普段着や街着の感覚で楽しむものというイメージが強いのですが、一つ紋付きの羽織は略礼装として扱われることもあります。逆に、黒紋付(喪服)を着るときは羽織は略式とみなされるため避け、黒の道行コートを着て会場前で脱ぐのが基本の流れです。冠婚葬祭のような格式ある場では、室内に入るときは上着なしで臨むのが原則だと覚えておくと迷いません。
季節で選ぶ羽織とコート
羽織にも単衣や薄物といった季節の作りがあり、暑い時期は透け感のある生地で涼しさを演出できます。単衣と薄物をどの時期に着分けるかは着物の衣替えはいつからいつまで?単衣と薄物の着分けをやさしく解説で詳しく触れているので、あわせて見てみてください。
冬場に活躍するのはやはりコートです。防寒を目的にした厚手の道行や道中着は、着物の上に羽織るだけで体感がぐっと変わります。ちなみに雨の日に着る雨コートは、防寒用のコートとはまったく別物です。雨仕様の生地と足元の対策については雨の日の着物対策 雨コート・足袋カバー・草履カバーにまとめているので、天気が怪しい日の参考にどうぞ。
一枚目に買うならどっち?
ここまでの違いを踏まえると、一枚目に選ぶ基準も見えてきます。羽織は室内で脱がずに済む分、着ている時間が長く、普段のお出かけで気楽に活躍させやすいアイテムです。羽織紐を外せば脱ぎ着もすぐなので、ちょっとした肌寒さにも対応できます。
一方で、フォーマルな場に呼ばれる予定がある方や、訪問着・留袖に合わせるきちんとした一枚がほしい方には、道行コートのほうが出番が多くなります。礼装にもカジュアルにも使える道行は、一枚あるとコーディネートの幅が広がる上着です。着る場面の多い方から選ぶ、という考え方でぐっと選びやすくなりますよ。
まとめ
羽織と道行コート、見た目は前が開くか衿が四角いかで見分けられますが、覚えておきたいのはやはり「室内で脱ぐかどうか」という一点です。羽織は着たまま、道行と道中着は玄関先で脱ぐ。この基本さえ押さえておけば、お茶会でも食事会でも慌てずに済みます。あとは長羽織や喪服の場面など、周りに合わせる場面があることだけ、頭の片隅に置いておいてもらえたらと思います。
